承前。ちょっといつもと違う感じで書いてみましょうか。
久坂葉子「幾度目かの最期」

  • 四年のあいだのこと
    書き出しがひどい。昔恋した男のひとに会いに行きたいとか行くとかいうような話。
  • 落ちてゆく世界
    家庭悲劇に近いような。この辺から面白くなってくる。これの改作で芥川賞候補になる。
  • 灰色の記憶
    自伝的小説(これだけ中篇)。当時ぼろくそだったらしいけど、良くできているように思った。ちょっと冗長ではあるかも。
  • 幾度目かの最期
    入り組んだ人間関係を頭の中でスッキリ理解できると案外面白くないのかもしれない作品。人間関係を理解するには富士正晴「贋・久坂葉子伝」が役に立つかも。書き上げた20時間位後に久坂葉子は自殺するわけだけど、それを知らずに読んでも多分この作品は面白い(こういうの読むと、そういう事情を知らなくてもこの作品を面白く思っただろうか? と考えるのが癖なもんで)。この作品の久坂葉子に共感したり感情移入したりするのは難しいと思うが、(「灰色の記憶」から続けて見れば)常識的であることとか普通であることとかに反抗していくうちに破綻していく様子は圧巻。こういうのこそ文学作品だよなぁ。

  • 「幾度目かの最期」の作中状況と少し似た部分が描かれているのだけど、向こうがごちゃごちゃとして鬼気迫るものがあるに対して、こちらはスカスカな感はいなめない。
  • 鋏と布と型
    戯曲。ねじれているのだけど、単純で、それほど面白いとは感じなかった。
  • 南窗記(そうの字は多分これじゃない気がするのだけどモニターで見たらわからないからまぁいいや)
    作者十五歳で書かれた随筆集から数編。他の作品も若いのでそれほどギャップはない。


全体として「幾度目かの最期」が頭ひとつふたつよっつくらい秀でている感じ。岩波か新潮は「灰色の記憶」と「幾度目かの最期」だけで文庫にして400円で売るべき。著作権も切れてるし。と思ったら青空文庫で読めました。作家別作品リスト:久坂 葉子