読書

クライトン四題

去年亡くなったマイクル・クライトンの未読小説が積読山から発見されたので読んだ。非SFぽかったので放っとかれたんでしょうたぶん。 インナー・トラヴェルズ えー、前三分の一くらいが医学生のころの体験談で残りが旅の話。解剖、精神病棟実習、嘘をつく患…

ローレンス・ノーフォーク「ジョン・ランプリエールの辞書」

陰謀論的展開を期待していたわけだが、裏切られる。 あらすじは省略。タイトルになっている辞書は実在する。ので、ジョン・ランプリエールも実在していた。ということは、歴史改編もののミステリなんですね。作中でも、かなり変わった経緯から、ジョン・ラン…

ラシーヌ『ブリタニキュス ベレニス』

あなたの非道ななさりようを、恨んで誓いを立てますなら、無惨にも、死にゆく前に、ベレニスが、あなたのもとに、非業の最期の仇を討つ頼りを残していきますならば、仇討の潜むその場所は、酷いあなたのお心の内。p257 浅ましいことを! どんな言葉を言えば…

さみゅえるべけっともろいさんぶさく

モロイを読んだ。二部構成なのだが、特に前半、さっぱりわからん。ジョイスの弟子によるシュール系カフカという浅い読み。でたらめっぷりが面白くて、にやつきながら読んでしまうのは我ながらどうかと思うが、別ににやついている自分を延々見せられ続けるよ…

ギリシア悲劇 アイスキュロス

覚え書き程度に。 縛られたプロメテウス神話。個人的には神々ばっかりで話が進む、こういう話のほうが好きなのだが。 ペルシア人映画のおかげで一躍有名になったクセルクセス王の、その後の敗走の話。アイスキュロス自身が戦争でペルシアと戦って兄弟を亡く…

打海文三『ハルビン・カフェ』

「きみの言うことは矛盾してるぞ。死んだら、わたしに復讐できないではないか」 このひとことに痺れた。言ってみたくも言われたくもないが。 舞台は福井県海市、中国韓国ロシアのマフィアが縄張り争いにしのぎを削り、警官の殉職数日本一の町で、殺された警…

大菩薩峠の向う側 〜いわゆるゼロ地点?

さて読了したはいいが何を言ったらよいものやら。 19冊目に至ってやっと《慶応三年十一月十一日》と日付が出て、それから特に時日は過ぎず、ほどなく小説は終わってしまうので、本来的にも江戸時代が終わるまで作中の時間は進んでいないように思われる。が、…

一応5なんだけど少なくとも次二冊はカウントダウン飛ばすよ大菩薩。

さてメモを取っておかなかったおかげで弁信が読者に話しかけ始めるのがどこだったかよくわからなくなってしまったので(相手のいないひとりがたりは十二くらいでやっているのだが、確かその後で読者に向けて喋るところがあったような気がするのである)そこ…

カント『純粋理性批判(上)』

純粋理性批判は面白い 我々の認識がすべて経験をもって始まるということについては、いささかの疑いも存しない。我々の認識能力が、対象によって喚びさまされて初めてその活動を始めるのでないとしたら、認識能力は一体何によってはたらき出すのだろうか。対…

ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』

簡単に言えば、十年かけて灯台に行く話。にもかかわらず、基本的には二日(というか夜から夕方までの丸一日)の話。一晩の間に十年が過ぎ去る全体のわずか10パーセントほどの文量の中間章に期せずしてやられてしまう(まぁやられるときってのは、えてして予…

大きな屏風に坊主が菩薩の絵を描いた峠も九歳になりました!

いよいよ壊れてきたな。 てなわけでいよいよ後半戦始まりました。物語は大菩薩を遠く離れて愛知がどうのこうのと言っておりますが、この十一冊目には、著者中里介山による「『大菩薩峠』既刊巻別梗概」が収録されており、巻末の解説はほぼエッセイなので、ど…

大菩薩前半を終えて〜折り返し地点10年目の真実〜

信濃の国、白骨の温泉――これをハッコツと読ませたのは、いつの頃、誰にはじまったものか知らん。 先年、大菩薩峠の著者が、白骨温泉に遊んだ時、机龍之介のような業縁もなく、お雪ちゃんのようにかしずいてくれる人もない御当人は、独居独来の道を一本の金剛…

大菩薩峠に11人いる! が、皆とおりすがりのひとだったでゴザル。

そういえば典型的忍者みたいなのが出てきてないな大菩薩峠。ところで九巻というか九冊目の解説は島尾敏雄である。 はじめて私が『大菩薩峠』を読んだのは、神戸商業の三、四年生のころ(……中略……)当時の私は山岳部にはいっていて峠なるものの存在に関心が強…

峠は続くよどこまでも〜残12里〜

お前とわたしと 駆け落ちしょ、 何所から何所まで 駆け落ちしょ、 鎌倉街道、駆け落ちしょ 鎌倉街道飛ぶ鳥は 鼻が十六、目が一つ…… いい心持ちで、声を張り上げている時、弁信が縁へ現われて、 「茂ちゃん」 「あい」 「あんまり出鱈目を歌ってはいけません…

世界文学全集36 フォークナー 集英社

アブサロム、アブサロム! アブサロムはもちろん聖書が元ネタらしい(サムエル記?)、手元の辞書によれば《愛息;手に負えない息子》とのこと。タイトル「・」ではなく「、」なのは、"ABSALOM, ABSALOM!"でカンマが入っているから。引用なのか、ひとりじゃ…

山崎豊子「華麗なる一族」

ドラマ未見。面白いらしいから読んだら、と渡される。らしいからって何ですか。せめて自分で読んでから面白いと渡しなさい。と思うがぐっとこらえる。まぁ渡されなければ読むこともないであろう作家であることだし……と思うのがそもそも間違いの始まりであっ…

トマス・ハリス『ハンニバル・ライジング』

某家の居間に置かれていたので「一日で返すわ」つって借りてもう返してしまった。 ハンニバル・レクターがまだ博士じゃないころの話。映画はどうなんだろうなぁ。とりあえず新潮は500ページごとき分冊しないでくれと言いたい。 まぁ要は彼にも陰惨な過去とか…

菜種梅雨ぶらりシリーズ18作目〜大菩薩vsサランボオ〜

さて二巻である。 前回も言ったが、もう出てこないだろうと思っていたやつが平然と再登場して話に関わってくるのだが、さっぱり必然性がわからない。というか、よくよく考えてみると、最初引用したあの序文からしてまったく理解できない。とりあえず投げ出す…

春ぶら〜菩薩の散歩残すところ19フェイズ〜

まぁ一冊くらい楽々読み終わりますよ。ていうか読み終わったの一昨日とかだろ。話が進んでいけばなんとかなるが、主人公である机龍之介がのっけからイレギュラーな行動をとりまくっていて、キャラクタが掴めず戸惑うのは必至。思い返してみても、やはり通り…

春のぶらり大菩薩二十年戦争

四月十五日うす曇り(たぶん)(いちにち引きこもっていたので知らない)(旅なのに引きこもりとはこれいかに)一日目。 第一巻をひらく。 この小説「大菩薩峠」全篇の主意とする処は、人間界 の諸相を曲尽して、大乗遊戯の境に参入するカルマ曼 陀羅の面影…

アンドレ・ジイド『法王庁の抜け穴』

ジイドだかジッドだかよくわかりませんだいたい伸ばす音と促音って似ても似つかねーじゃねーか! でおなじみのフランスの作家。フランス文学のメジャーどこ(スタンダールとかあのへん)が嫌いで、シュルレアリスム宣言は面白いからフランスの作家は理論家だ…

ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』

ほとんどが無駄話で構成されている二十世紀の古典。 ストーリ? そんなもんないよ。1904年6月16日のおはなしです。 導入部である第一部は『若い芸術家の肖像』でおなじみのスティーヴン・ディーダラスが主人公。ひげをそるあたりから始まる。けどスティーヴ…

アラン=フルニエ『グラン・モーヌ』

身悶えしてしまうような青春の書。萩尾望都なんかが描いているギムナジウムのイメィジで読んでしまいましたが、ギムナジウムはドイツ語なんですね。若干かそれ以上イメィジとは違うのかな。登場人物もあそこまで不安定な感じではない(作品名を挙げないとど…

エラリー・クイーン ハリウッド期(含国名シリーズ補遺)

『中途の家』 なんと法廷劇まである異色作。しかもこれが結構面白いから困る。俺はエラリー・クイーンの読者に向いていないのではないかと思い始める。 トリントンのあばら家で殺された男。ニューヨークの彼の妻と、フィラデルフィアの彼の妻。重婚と二重生…

エラリー・クイーン 国名シリーズ後半戦

前半は四年ほど前に読んだのだがもったいぶったエラリーとさえない父上のコンビに嫌気がさして捨てていたのを見つけ出してくる。 『アメリカ銃の謎』 ロデオショーの真っ最中二万の観客を前に主役が射殺、容疑者を逃さぬようコロシアム閉鎖、しかし凶器とな…

ディクスン・カー『皇帝のかぎ煙草入れ』

カーおもしれーな。古本屋でもあまり見かけないのは一部の好事家にしか愛されても読まれてもいないっつーことなのかもしれないが。 通りを挟んだ向かいの家で、骨董好きな家の主人が殺される。女主人公は部屋の窓から、その死体と逃げ去る茶色の手袋の人物を…

ジャム詩集

ほんとうは本なんて読んでいないのだけど、でっち上げるのはそれなりに得意分野と呼んでもいいくらいなので適当に何か書いておこう。ということで長くなるので途中で畳んでありますが、テンションの低さは拭いきれない雰囲気となって漂っている通りなのでひ…

ナタリア・ギンズブルグ『ある家族の会話』

で、何故か、これを読み始める。父親がいくらなんでもディフォルメされ過ぎているような気がするけど、まぁこんなものなのかしら。なんだかまぁロボットの寸劇のような話である。 と思っていたが、読み進むにつれて語り手本人の話が多少なり語られ始めるとそ…

ガブリエル・ガルシア=マルケス『コレラの時代の愛』

読了後に、コレラの時代の愛であることに気付く。コレラ? 話と何か関係ありましたっけ? 訳される前は面白い面白いとの意見ばかり独り歩きしていたコレラだが、訳されてみるとそんな褒めちぎるほどのものでは……的感想が多いように思う。面白い、とは言える…

天沢退二郎『光車よ、まわれ!』

すごいなぁ。童話にもかかわらずハードにひとが死ぬわ、読み終わっても謎は解き明かされないわ、事件も解決をみてはいないわと、こう書いたら、いかにもどうしようもない作品のようであるところが何よりすごいわ。 大雑把な筋としては、小学生数人が、他世界…