『マルセル・エメ傑作短編集』
これは当たり。まぁ外れたやつはわざわざこんなとこに持ち出さないのだからわざわざ明言するまでも、という気もするが。フランス文学って、ちょっと王道的なフランス文学(スタンダールとか)を憎悪してるようなフランス文学嫌いの奴がいっぺんあさりなおす必要があるんじゃないか。もしこんなのがごろごろしてるならハヤカワの異色作家掘り出しを待ってる場合じゃないような気がするんだけど。
- こびと
三十五歳の年に、バルナブーム・サーカス団のこびとは成長を開始した。
まぁそれだけの話。こびとは死んだよ。の一言が印象的な、でもまぁ普通の一篇。
- エヴァンジル通り
乞食と酒場、あるいは酒場のある通りとホームレス。
俺の偏見の中のフランス文学ってこんな感じ。後半に対して意味のない前半(描写が中心)、女は特に意味もなくセックスして男を捨てる、別に誰も幸せにならないラスト。
- クールな男
刑務所から出てきたおれは、メデという男に会うため『羅針盤亭』へ向かった。
ラストが素敵。ここの素敵にはクールってルビを脳内で振っといてください。
- パリ横断
戦時中闇物資取引の運び屋が徒歩でパリを横断する話。
多少大げさに言えば、話は予想もしない方向に……ということなのだが、集中最長の80ページ弱なんで伏線が割とちゃんとしててそんなこともない。灯火管制されたパリの町並みなんて当然見たことはないのだけど、目に浮かぶような描かれぶり。
- ぶりかえし
秀逸。これだけの為に読んでも損はない。購入を迷って立ち読みするなら、この短篇を読むべき*1。
今日のしびれる一言。←新コーナーってことでいいですか
沈黙を破ったのはわたしだった。
「で、ゲロを吐いてから、調子はいいの?」
- われらが人生の犬たち
じいさんがガキどもに語る、数々の犬の物語。
- 後退
黒い部分は見せぬように軽い味付けのユーモア小品。いや、むしろ黒い部分を見せつけているのかも。
*1:購入をためらいたくなる値段であることは認めざるを得ない(薄いから)。