天沢退二郎『光車よ、まわれ!』

すごいなぁ。童話にもかかわらずハードにひとが死ぬわ、読み終わっても謎は解き明かされないわ、事件も解決をみてはいないわと、こう書いたら、いかにもどうしようもない作品のようであるところが何よりすごいわ。
大雑把な筋としては、小学生数人が、他世界やら不思議勢力からの侵略(かどうかよくわからないけど)を三つの光車を探し出して喰い止める、というような(断言できるほど把握できていない)。
色々なことがあまりにも不明すぎるのだけど、宮沢賢治の彼方へを読んでみて考えると、これは作中にほとんどの疑問に対するヒントないしは伏線があるものと考えるほうが理にかなっているように思われ、とすれば俺は感想や何かを書くほど本を読めていない、という結論に達さざるを得ない。しかし一方で作者が宮沢賢治に抱いている複雑な感情を加味すれば、作者にとっても不明確であることを、ある程度不明確なままで提出する方法をとっているとも考えられ、とすれば疑問の答えについては、読者が作品から引きずり出すものである(つまり伏線もヒントも明確なものではなく、どの文章をそれとして採用するか読者の判断にゆだねられている)、とも言うことができ、結局のところ俺は何か書くほど本を読めていないということになるようなのでもうこの話はやめようかと思う。
一郎が単独で主人公だったらさほどでもなかったかもしれないのだが、ルミのパートが入ることで話が一気に拡がりを見せ、それが拡がったまま閉じられない(少なくとも畳みこまれていない。四隅をまとめてみたけど何か長いものがはみ出したり、ふにゃっとしたものがぶら下がったりしている)。童話だと思って舐めてかかるとすっかり混乱させられてしまうこと必定。どうやら復刊されたやつにはあとがきが付いているらしい。どっかで読めないかな。