ローレンス・ノーフォーク「ジョン・ランプリエールの辞書」

陰謀論的展開を期待していたわけだが、裏切られる。
あらすじは省略。タイトルになっている辞書は実在する。ので、ジョン・ランプリエールも実在していた。ということは、歴史改編もののミステリなんですね。作中でも、かなり変わった経緯から、ジョン・ランプリエールは辞書を書くことになる。辞書はギリシア古典の固有名詞辞典で、作中の事件もギリシア神話的見立てをともなう。関連知識はなくても平気だけど、見立てに使われた場面なんかがパッと思い浮かんだ方が面白かろう(というのは言うまでもないか)。
秘密組織はあるし、ジョン・ランプリエールも命を狙われるのだが、視点が組織側の人間までスポットを当ててくれちゃうので、エーコとかそういう感じを期待していると、のっけから全然違うことがわかってちょっとがっかりする。
仕方がないので、ジョン・ランプリエールがいかにして真相へたどり着くか、という倒叙ものとして読むのだけど、読んでいるうちに、なんかそういうわけでもないような気がしてくる。
登場人物も多いし、各人のエピソードも豊富で、本の厚みに違わぬだけの情報は提供してくれるわけだけど、その中での伏線の量が半端でなく、次々張っては視点をころころ替えてどんどん消化していく。これがなかなかに快感。序盤のがっかり感はどこへやら、しばらくは本の閉じ時を見失うことになる。残念なのは真相がわかるころになると失速してしまうことだが、真相にたどり着くまでが長い話なので大部分楽しめるんだし、そこは御愛嬌ってやつですよね。
ただし、過程は面白いながら、結果としての真相あんど結末は本当に期待できないので、読む際はそこに注意しておくと、より失望なく楽しめると思います。ほめてんだか、けなしてんだかわからんね。あ、視点が替わって伏線が消化されるということは、読者は色々わかるけど主人公おいてけぼりということなので、最後までいってもほとんどそのままなのが大変良かった。そこは僕好みな感じ。
帯のアオリは解説&訳者あとがきを曲解したような具合で、まぁどれもそれほど読んだわけではないとはいえ、大きいこと言ってるなぁという感じ。個人的感想としては、似てんのはコレだね(真相のあっけなさであるとか、中盤の面白さであるとか)。