先週と先々週、二回行ったぶんをまとめて。

フランツ・カフカ『失踪者』池内紀訳 白水uブックス
要はアメリカなんですが、旧来の邦訳とは違う、マックス・ブロートver.よりもカフカ自身が意図していた本来の形に近づけた、とされているもの。ていうか売り上げが見込めるからってちょっと高めな値段設定はかなりヤラシイと思うよ。これが面白かったら審判城も欲しいところだが……。個人的には、結構好きなんだよね『アメリカ』。カフカのユーモラスな面が良く出ているというか、暗い重いだけの作家じゃないってことが良くわかるというか。誰かあらすじ語るのが上手なひとに語らせたら涎拭く暇もないくらい笑えると思うよ。第一章は短篇としておなじみの「火夫」なんで、あれの続きが気になるひとも手にとってみたらよろしいかと。
スタニスワフ・レム『砂漠の惑星』飯田規和訳 ハヤカワ文庫SF
重版すべきだよと言った矢先に復刊してたので買ってみる。問題は俺がソラリスを持っていない上に国書版で読みたいとか思っているせいで文庫を買う気にならない点なのだが、そもそも新しいほうの映画を表紙にしている(たぶん現行の)ヴァージョンはどうしたっていらないので、まぁとどのつまりどうしようもない(散財しろってことさ)。
以下古本。
浅暮三文『似非エルサレム記』集英社
ハードカヴァー750円。聖地エルサレムは永い眠りから覚め、動き出す、自らを呼ぶ声のほうへと……。とまぁ発想はステキなんですが、どうも内容が追いついてこない。どこにリアリティがあれば物語は面白いのか、ってのも使い古された命題ですけども、そのへんが個人的な好みとだんだんずれてきてる印象。『ダブ(エ)ストン街道』は素晴らしかったんだけどなぁ。作者はメフィスト賞(たぶん第8回)受賞者で、前出のダブエストンだかダブストンだかダブットンだかダベットンだかよくわからない名称の街道を追い求める(正確にはそこにいるらしいタニヤを追い求める)ファンタジー作品で、ミステリ系の賞であるメフィスト賞を獲って同賞初のハードカヴァー出版となった変り種の作家。推理作家協会賞を獲った『石の中の蜘蛛』とかタイトルからして秀逸な短篇集『ぬ』がおすすめかな。面白い作品は非常に面白いが凡作もあり、という感じの評価。
『谷崎潤一郎 渡辺千萬子 往復書簡』中央公論新社
これもハードカヴァーで300円くらい。「瘋癲老人日記」のモデルになった、と言われても、ふーてん老人日記には孫くらいの齢の娘しか出てこなくはないか? と思いつつ購入。なんと義理の娘らしい。ちなみにふーてん老人日記は「僕ハ貴女ニ踏マレタイ。貴女ノ足型ヲ墓石ニシタイ。アア、骨ニナッテマデ貴女ニ踏マレルナンテ、想像シタダケデナンテ幸セナコトダロウ」「アハハハハ、オジイチャン。ソンナニ私ニ踏マレタイノ? ソレナラ踏ンデアゲルワ」という話である。たぶん現代の読者からすると「盲目物語」と双璧をなすであろう読みづらい作なんで下世話な興味で読み通せるかはやや疑問だが、谷崎の小説が艶っぽいを通り越してエロ小説なのは間違いのないところなので(特に「鍵」あたり)読んだことのないひとは是非読むべき。
D・H・ロレンス『現代人は愛しうるか――黙示録論』福田恆存訳 中公文庫
たぶんちくま学芸文庫で出ているやつの旧版だと見当つけて買ってみた。そもそもロレンスなんて短篇集しか読んだことがないわけだが、そこにはとりあえず目をつむっておく。なんせタイトルがなぁ……『翼ある蛇』なら多少は読んでみたいとも思うが……。300円。
東浩紀『動物化するポストモダン』講談社現代新書
250円くらいだったかな。なるほどなぁ、とは思うんだけどその域を出ないそれほど魅力的でない現代(オタク)文化考察、といった感じでどうでしょう。笠井潔と対談本が出てるんだなぁ、という程度の認識だったんだけど、実は往復書簡本で対談じゃないらしいということを今知りました。
カエサル『ガリア戦記』近山金次訳 岩波文庫
250円。講談社学術文庫とどちらの訳が良いのか? と気にしつつも、決定的な違いはなさそうなので安いほうを。ところで塩野七生って俺新書読んでボロクソにけなした(ひとの読感の代書)ことがあるだけなんだけど、ローマ人は言われてるほど面白いんかね。全巻100円になってくれないことにはあんな薄い本まじめに買う気しねぇしなぁ(薄利多売断固反対の貧乏人←好きな作家は?←小分けにする前の京極夏彦です!)。
福永武彦『風のかたみ』新潮文庫
200円。王朝もの。以前は微妙そうに思えてスルーしていたのだが、絶版なので手に入れておくにこしたことはない。持っていた他の作を全部読みきったから買い足しの意味も。そういえば『1946・文学的考察』復刊したんだよな。冨山房百科文庫のほうはそれに伴って絶版にされたのか?(持ってるから別に困らないし版を切らさないならどうでもいいが←講談社文芸に限って判を切らさないなんてことはありえないと思った)。
石川淳『夷齋筆談』冨山房百科文庫
で、噂の冨山某である。カヴァーなし200円。もとからそうなのか(昔の岩波文庫みたいに)、古本になる過程でそうなったのかは不明だが(少なくとも現在の冨山房百科文庫にはカヴァー付いてますちなみに)、デザイン的に気にならないので購入。予想では文学エッセイだが、小説だろうが漫談だろうが別に構わない。ちなみにもうひとつちなんでおくと、冨山房百科文庫は新書サイズです。
泉鏡花『夜叉ヶ池・天守物語』岩波文庫
130円。薄い本が欲しくなったので。戯曲。陽炎座の元ネタのひとつじゃなかったっけ、と思って買ってきたんだがそもそも映画のほうをよく憶えてない。たいへん長々とした映画であったことよ、という程度の印象だけがある。
プラトン『ソクラテスの弁明・クリトン』久保勉訳 岩波文庫
120円。ホメロスより面白いよこれ(古代ギリシアだからって400年も時代の違うものを比べんなって話だが)。訳者も書いてるけども、芸術的に優れた文章作品であると思う。
以下100円。
折口信夫『死者の書・身毒丸』中公文庫 柳田國男の弟子の民俗学者にして古典文学研究者でもあり歌人でもあった女性嫌いの怪物的文化人折口先生のたぶん最も手に入りやすい著書。
浅田彰『「歴史の終わり」を越えて』中公文庫 対談集。『ヘルメスの音楽』で好き勝手言ってるのを最近読んで多少興味が。
モリエール『守銭奴』鈴木力衛訳 岩波文庫 買っておけばきっと読むに違いないという希望的観測。
ボーヴォワール『他人の血』佐藤朔訳 新潮文庫 『第二の性』の二巻が手に入らないのでむしゃくしゃして買った。読むかはわからない。