ジェイムズ・エルロイ 暗黒のL.A.四部作

一番面白いのはビッグ・ノーウェア馳星周は一体ホワイト・ジャズのどこが好きなんだか巻末エッセイを読んでもさっぱりわかりませんね。思い入れが深いことだけは何となく伝わったけど、小説家としてそれでいいのか、とは思わずともない。ま、読んだことないですが。
四作とも訳者が違うので、何とも言い難い文体の不統一感がそれに由来しているのか、原文からしてそうなのか、不明であるのが痛い気がする。とりあえずわかったのは、縦書きでスラッシュ使われると読みにくいっつーことだな。横書きでは俺も使ってるけど、読みにくいのかねあれはもしかして。まぁ慣れの問題か。熱心な訳者がシリーズ通して仕事して、各作に愛情たっぷりの後書きでも付けていたらもっと評価は高かっただろう(しかし逆に低くなる可能性もあるな)。
基本的にどの作品も最初4分の1(200ページくらい)があんま面白くないのが困りどころ。登場人物も多くて名前おぼえるのが大変。登場人物表が付いているけど、役に立たないことにかけては凄まじいの一言。作ったやつはちょっと馬鹿なのかもしれないと思った。あるいは記憶力が良過ぎて愚民の悩みどころは理解不可能なのかもしれない。ちなみに、当然古本を購入していたんですが、レシート裏にびっしり書かれた追加登場人物表がビッグ・ノーウェア下巻に挟まっていました。一部正規の登場人物表とかぶっていたのが前の持ち主の可愛げを象徴していて面白かったが、ビッグ・ノーウェアに関してはいらなかったので捨てました。我ながら身も蓋もない奴だ。

死体が見つかるところから始まりそうな話の割に、最初のほうはボクシングをしていたりする。とはいえ、おぼえなきゃならない人物も少ないし、場面がめまぐるしく変わることもなく、少々の暇さえこらえれば加速度的に面白くなっていく。前にも言った気がするが、主人公ふたりの名前が似ている。ついでに言うと、ダリア含めヒロインが三人もいる。意外に読後感が良いのは、罠です。

  • ビッグ・ノーウェア

アカ狩りを命じられた警部補・同性愛者殺人を追う保安官補・マフィアの御用聞きをやっている元悪徳警官。これが一番良かった、と言うのは、多分に俺がハードなノワール向きではないんじゃないかと思う。しかしね、三人が一堂に会するまでの伏線とその後の発展、三人それぞれの捜査参加への動機、有能なアル中警官、マフィアのボスのイカレ具合、殺人の陰惨さ、背後に蠢く陰謀、悪徳警官の末路、と、どれをとってももう何ていうか素晴らしいよ。百聞は一見に如かず、なんせ周到な伏線やら手間のかかった構成やらで説明しきれない部分が多過ぎる。これはもう読むしかないです。

上昇志向が強く有能だが嫌われ者のエクスリー・DVを嫌悪する暴力警官ホワイト・どいつにもこいつにも弱みを握られる通称ゴミ缶ヴィンセンズ。あいかわらず背後で陰謀は巡らされ、過去の陰惨な事件は掘り出され、もちろん現在でも血みどろな事件が起こり、誰も彼もが泥沼にはまっていく。負けず劣らず面白いとは思うのだが、扱われる期間が長いせいもあってか前作に比べると畳み掛ける感が弱まり、単独で読んだら面白かったであろうに直後に読んだというだけでビッグ・ノーウェアと比べられてしまう可哀相な作品。それもこれもビッグ・ノーウェアが面白くてすぐに次作を読みたくなってしまうせい。全部ビッグ・ノーウェアが悪い。

  • ホワイト・ジャズ

久々に単独主人公。巻き込まれ型。共通して登場する人物の口調が変わっていてとても困る。連続して読まなければ気付かなかったかもしれないのに。全部ビッグ・ノーウェアが悪い。単独で読めばきっと面白い作品。誰かが訳し直すべきであると思う。


LAコンフィデンシャルはビッグ・ノーウェアのネタバレがあり、ホワイト・ジャズには言われなければさして気にするほどでもない程度にLAコンフィデンシャルのネタバレがある。LAはビッグの後に読むべきだと思うが、ジャズは読んでからLAでも楽しめるかも。というか、最後がジャズなのが逆にツライなーと感じた四部作でした。
ちなみに映画はダリアもLAも未見。いや、LAは見たかもしれないがおぼえてない、が正解かも。