山崎豊子「華麗なる一族」

ドラマ未見。面白いらしいから読んだら、と渡される。らしいからって何ですか。せめて自分で読んでから面白いと渡しなさい。と思うがぐっとこらえる。まぁ渡されなければ読むこともないであろう作家であることだし……と思うのがそもそも間違いの始まりであったとは、既読者以外予想だにしないのであった……。
そんなこんなで有名作家の作品だが、まぁこれがもう冗長を通り越して無駄である。何か色々無駄なものばかり詰め込んで、そのくせ痒いところには手が届かないのだからやはり苦行としか言いようがない。登場人物は人形というにもおこがましい平板、描写は主として無駄、展開の速度は遅くその上ご都合主義も甚だしい。
ストーリは簡単に言えば親と子の戦い。もう少し細かくいくと、金持ち一家が銀行と企業を道具にお家騒動を起こす話。主人公は銀行頭取である親と、鉄をこよなく愛する技術者である息子、頭取一家を裏で操る妾、だいたいこの三人。
この妾と頭取は、作中では大変頭の良いような設定になっているのだが、残念なことにどう見ても馬鹿であり、それに騙されているような周囲の人間はいくらなんでもありえないほど馬鹿ということであって、息子は直情主義の単純馬鹿なので、結局登場人物はみんな馬鹿である(作者が馬鹿でないことを祈るばかりだ)。
そもそも長男出生に際しての疑問なんかがあるなら、四十年近くもほっといて何故今さら持ち出すのかの理由付けくらいしてほしいもので、血液型がどうのこうのと言うならもっと伏線になるように出せばいいものをなんでそう後付けに見えるような書き方をするのだろうかとかまぁ色々話にもおかしな部分がないではない。けど俺が真面目に読んでいないので普通に読み飛ばしている可能性は否定できない気がする。
タイトルはこの頭取一家を指しているようなのだが、一族という割には成金である。全体に成金特有のいやらしさみたいなものは漂っているのだが、二度ほど、はたから見れば華麗なるこの一族〜みたいな描写があったように思うので、おそらく皮肉としてのタイトルではなく、結構真面目に華麗だと作者は思っているらしい。それならそれで、外見くらい華麗であるように描けるだけの筆力があれば良いのだが、某作の自称《落ちぶれた》三姉妹(通称三バア←婆さんなのである)のほうがまだ優雅である始末なので、なんというかもう何もかもがパッとしない。
1700ページも読まされる側としてはそれなりにそれなりの結末が欲しいところなのだが、そのへんも妙に肩透かしな具合で、え? これってエンタメじゃないの? と思わずつぶやいてしまうような、盛り上がりに欠ける終部。トンデモな映画を独りで見てしまったような感覚に襲われる。読むときは、必ず巻き添えを用意してから読むことを強くおすすめしますよ。まぁそれ以前に薦めませんけど。